アスペルガー症候群という発達障害の一種がある。対人関係やコミュニケーションなどで困難を抱える自閉症に似た障害だ。その原因は脳の先天的な機能不全にあると考えられているが、はっきりと解明されているわけではない。現在は研究が進んで医学的には精神障害のひとつと見なされるようになった。しかし、社会生活においてアスペルガー症候群の人々を取り巻く状況はあまり変わることはなく、依然として周囲からは「ちょっと変わった人」「変な人」と思われて距離を置かれる場合が多いのではないだろうか。今日では一般人がアクセスできる情報も増えてきたため、本人がそれを自覚できる機会も得られるようになった。原因が先天的なものである以上、根本的に治す術はないのかもしれないが、自らが自覚することができたなら、それだけでも大きな助けになるに違いない。対処法を考えることができるからだ。
もっとも、アスペルガーな人は社会生活を送っていくうちに人間関係で悩み、孤独に苛まれながらも、経験的に自分なりの自己防衛法を身につけてゆくものである。例えば、仕事を選ぶ際、人とのコミュニケーションがなるべく必要のない仕事に就く。臨機応変の対応が苦手なので、単純な繰り返し作業を続ける仕事を選ぶ。言葉で説明されることに理解がついてゆけないことが多いので、とりあえず、わかったふりをする術を身につける。冗談が理解できないので、とりあえず、笑ってやり過ごす。等々。浅い付き合いなら問題は起こらない。相手もほとんど気にしないだろう。しかし、ちょっと付き合いが深まってくると相手の感情を害することが多くなる。人はある感情を抱くと、それが一種の波動となって放出されるものである。アスペルガーな人たちは社会生活の中で「この人とは友達にはなりたくない」という波動を嫌という程受けることになるだろう。だから遂には「誰かと友達になりたい」などという期待を抱かないようになり、ポツンとひとりでいることが多くなる。
僕は週に2日ほどアスペルガーの人と一緒に仕事をする機会がある。表面上は普通の人に見えるので、そのつもりで会話をしたり期待をしたりすると後でがっかりさせられることが多い。こちらが一所懸命説明しても「わかったふり作戦」で対応されて、実は全くわかっていなかったり、食事をしながら何人かで打ち合わせをしても、その直後にトンチンカンな質問をしてきたりする。僕は初めはこの人は難聴なのではないかと思った。しかし、どうやら耳から入ってくる情報を正しく処理することができないというアスペルガー特有の障害らしい。そして、およそ相手の立場に立って物事を考えることができないから、何か困った事態が起こっても助けようとはしてくれない。それでいて長年の経験からか保身術には長けている。例えば、いくつかの仕事が目の前に差し出されるとする。彼は必ず単純作業を繰り返すようなリスクの少ない仕事をさっさと選んでやり始める。その見極めは非常に早い。ちょっと大変で難しそうな仕事はたいがい結局僕がやることになる。「挑戦」することは嫌いじゃないのでそれはそれでいいのだが、他人に配慮しない彼の態度には、正直、不快感を抱いてしまう。
そんなわけで僕も、これまでに幾度となく「この人とは友達になりたくない波動」を発生させてきたことは確かである。カルマ・ヨーガの実践者としてはまだまだ未熟な証拠であるが、未熟ゆえにこの人と縁を持つ機会を与えられたのだとも言える。
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