「『拝啓、、』で始まるあの歌はなんだっけ?」と妻が娘に聞いている。僕はまさか吉田拓郎のあの曲のことではあるまいなとは思いながらも「拝啓、僕はとても残念でした〜」と口ずさんでみた。妻は無反応。娘がすかさず「アンジェラ・アキだよ。」と答えている。娘が言ったのは「手紙 〜拝啓、一五の君へ〜」という曲のことである。娘が口ずさんで妻が「そう、それ!」と言っている。アメリカ生まれの娘が知っているくらいだからかなりヒットした曲なのだろうが、僕にとっては自分が中学生の頃によく聞いた吉田拓郎のあの曲の方が気になって仕方がない。あの拓郎節が無性に聴きたくなってネット検索をしてみた。「加川良の手紙」というタイトルだったんだと知った。ユーチューブに音源もありました。「いや〜、懐かしいなあ」と思いながら聞いているうちに肉体労働の疲れからか、いつの間にかうたた寝をしてしまっていた。その間 YouTube はオートプレイで次々と曲が変わり、ふと目が覚めた時に何やらすごくいい曲がかかっていた。歌詞がやたらと心に突き刺さってくる。思わず僕は泣いていた。それが吉田拓郎が歌う「ファイト!」だった。
この曲は作詞作曲が中島みゆきなのだが、本当に吉田拓郎が唄ってこそ魂が吹き込まれる作品だと僕は思った。中島みゆき本人もそれを願って作った曲らしい。まさに拓郎節そのものなのだから。調べてみると福山雅治や槇原敬之もカバーで唄っているのだけれど、拓郎バージョンを聴いてしまうともう彼らのは最後まで聞こうという気にはなれない。中島みゆき本人の歌さえも「これは違うな」と思ってしまう。やはり吉田拓郎が歌うからこそいいのだ。そして、人生経験が長くなるほど、より深く胸に染み入ってくる作品というはやはりあるものだ。そういう作品はきっとのちの世代の人たちに「クラシック」と呼ばれるようになるのだろう。
ティーンエイジャーになったばかりの頃、僕の人生のお手本はフォークシンガーたちだった。吉田拓郎に始まり「かぐや姫」「チューリップ」「甲斐バンド」などのフォークソングを聴きまくった。親に隠れて聴いていた深夜放送のパーソナリティはシンガーソングライターばかりだった。人間の喜怒哀楽を歌い上げたフォークシンガー達は僕にとって酸いも甘いも知り尽くした人生の先輩であったのである。たった一つの歌で人に勇気と希望を与えることができるのだとしたら、どんな伝道活動よりも優っているのではないだろうか。もし、またこの地上に生まれ変わる時が来たとしたら、今度は是非シンガーソングライターを目指してみたいと思った次第である。
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